脳科学・遺伝学に基づく「催眠療法」に関連した補足解説

 パニック障害(パニック症)(P.155~162)

 
パニック障害は突然の恐怖や不安を伴うパニック発作を特徴とする障害です。
 
パニック発作は、交感神経系の過剰な興奮によって引き起こされる一連の身体的および心理的症状です。パニック発作の場合には過度に、そしてしばしば理由なく活性化します。
 
過剰に興奮した交感神経系は、心拍数の増加、呼吸の速度上昇、瞳孔の拡大、汗の分泌増加などの症状を引き起こします。このような症状は一時的には危険ではありませんが、その瞬間には非常に恐ろしいと感じられ、何が起こっているのか理解できない状態を作り出すことが多いのです。それゆえに、予期不安に怯えるようになります。
 
脳科学の知見を基に、パニック障害における脳の状態やその背景を以下に詳しく説明します。
 
情動系の過敏性
パニック障害の患者は、脳の情動を処理する部位、特に(扁桃体(Amygdala)の過敏性が関与していると考えられています。扁桃体は恐怖や不安の反応を制御する中心的な役割を果たします。パニック障害の患者では、通常の人よりも強い反応を示すことが示唆されています。
 
前頭前野の機能異常
前頭前野は、感情や反応を調節し、適切な行動を選択する役割を持っています。一部の研究で、パニック障害の患者はこの領域の機能異常を示すことが確認されています。この異常により、恐怖や不安の反応を抑制する能力が低下していると考えられます。
 
セロトニン系の異常
セロトニンは、情動や不安反応を調節する重要な神経伝達物質の一つです。パニック障害の患者の中には、セロトニン受容体の異常やセロトニンの放出・取り込みのバランスの乱れが指摘されることがあります。
 
ストレスホルモン
ストレス時に放出されるホルモン、特にコルチゾールは、過度に放出され続けると、脳の情動系を過敏にする可能性があります。パニック障害の患者は、ストレス反応の過剰さやコルチゾールの異常な放出パターンを持つことが示唆されています。
これらの要因は、パニック障害の患者が特定の状況や刺激に過度な恐怖や不安反応を示す理由を部分的に説明しています。
 
重要なのは、これらの脳の変化や異常がどうして起きたのかといった、最初のパニック発作時の状況です。これは著書内の例で説明しています過去の精神的トラウマが絡んでいます。そのことをしっかりと理解して対処していくことでパニック症もその後に起きる予期不安症も改善できるのです。
 
予期不安に関する脳科学の知見
予期不安は、未来のパニック発作の恐れや、それに伴う社会的・物理的な結果を過度に心配する状態を指します。これは、次の発作がいつ、どこで起こるかを常に警戒している状態ともいえます。
 
扁桃体の役割
前述したように、扁桃体は恐怖や不安の反応を制御する中心的な役割を果たしています。予期不安においても、扁桃体の過敏性がこの恒常的な警戒状態の背後にあると考えられます。
 
前頭前野の制御の低下
通常、前頭前野は扁桃体の活動を調節し、過度な恐怖や不安反応を抑制する役割を果たしています。しかし、予期不安の状態では、この制御機能が低下することで、不安や恐怖を適切に抑えることが難しくなると考えられます。
 
視床下部-下垂体-副腎系
この系統は、ストレス反応を制御する重要な役割を持っています。予期不安は、この系統の活動の異常に関連しており、特にコルチゾールなどのストレスホルモンの放出の異常が予期不安の持続や増幅に関与している可能性が考えられます。
 
海馬(ヒッポカンパス:hippocampus)と記憶
海馬は、記憶の形成や情報の整理に関与しています。パニック発作の経験は、この領域(ヒッポカンパス)に記憶として保存され、類似の状況や刺激があると、以前の発作を連想して再び強い不安反応(予期不安)が起こります。また、ヒッポカンパスはストレスホルモンの高い状態で機能低下を起こすことが知られており、これが恐れや心配(予期不安)を適切にコントロールする能力の低下が起こるのです。
 
背外側前頭皮質の役割
背外側前頭皮質は、注意や焦点を絞る機能に関与しています。予期不安の状態では、この領域が過活動し、患者が次のパニック発作に関する考えや心配に過度に焦点を絞り続けることが示唆されています。
 
このような脳の複数の領域や神経伝達物質のバランスの異常によって生じていると考えられる予期不安は、パニック発作を起こす明確な原因が分からないことで起きる不安なのです。
それゆえに、心理療法を伴う催眠療法で改善できるのです。

 
 
 
脳科学・遺伝学に基づく「催眠療法」補足解説 マインド・サイエンス独自の催眠療法