身体醜形障害(醜形恐怖症)は、自分の顔や容姿が醜いと思い込み、人に嫌われたり、不快な思いをさせたり、他人に迷惑をかけていると信じてしまう症状です。この症状が進行すると、外出することもままならず、結果的には閉じこもることにもなっていきます。
または、自分の顔のパーツや輪郭が嫌いで、そこを変えなければ気が済まなくて、その手段としての整形を強く要求する人もいます。また、服を着ていると人からは見えない部分についても悩んでいる人もいます。
きっかけは学校などでの人間関係の問題が多く、自分に自信が持てない生育環境(愛着の問題、第1章P.89 ~)を有しています。
高校生の女子の例ですが、彼女は幼児期から母親との関わりが密ではなかったこと(愛着障害)で、中学校の友人の中でいろんな我慢を強いられて、高校へ上がり、どうしても周囲とうまく関われずに悩んでいるうちに、学校へ行けなくなってしまったとのことです。
そして、母親に目の整形をしたいと訴えだしたのです。
母親からのメールですが、「起床と同時に機嫌が悪く、私と主人を睨みつけて、何も話さない状態です。今日も、朝から機嫌が悪く、整形肯定派の動画をずっと見続けています。私が感じるには、就寝中から起床時にかけて、親への憎悪感情が大きくなるようです」とのことです。この娘さんは、目が父親に似ていることで、それが受け入れ難く、変えたくて苦しんでいます。
母親からのメールは続きます。
「親への憎悪から、自分が嫌になり、整形への欲求が抑えられない状態であるのは、私もよく理解しておりますが、娘の心の中で、この因果関係が、彼女の整形への欲求を正当化しているようにも感じます。主人も私も、娘が今辛い状態にあることに対して、親としての責任は大いに感じております。もちろん娘が我々を拒絶し続けても、娘への愛情は変わりません。親への憎悪はなくならないと思いますが、なんとか、娘が今の自分自身を受け入れ肯定し、現在の自分で良しとする考えを持ってくれることを願っており、井手先生のお力添えをいただきたいと思います」
会って話を聞いて感じるのは、この娘さんにとって、親に対する憎悪というよりは、これまで、親の価値観を押しつけられて育てられ、自分の気持ちを汲みとってくれなかった親への不満といえます。
娘さんの心の底では、親への憎しみの気持ちより、本当は、愛されたかった気持ちが強いのです。
一般的に、親は、自分の価値観を子供に押しつけている意識がなく、親が良かれと思ってやっていることは、子供にとって必要なことだという勘違いをするものです。確かに、親の価値観は正しい場合が多いでしょう。しかし、子供にとっては、自分の気持ちも聞き入れてほしいと願っている時もあるのです。
この娘さんの場合は、日常的に親の考えを押しつけられて、嫌だと言っても聞き入れてもらえずに、父親に無理やり従い、それに耐えながら子供時代を過ごしてきたと話していました。これまで自分の気持ちを汲みとってくれなかった親に対して、不満と抗議の感情を引きずってきたのです。
この例のように、子供に心の問題が表面化した場合、親のほうからこれまでの子供への関わり方を反省して、変えていこうと努力することがあります。こうした場合は、もちろん紆余曲折はありますが、親子関係が良い方向へ変化して、互いに成長し、これまでの心の確執も徐々に改善されていくものです。
もちろん、娘さんは、整形手術を受けることなく問題を解決することができました。
最後に、お母さんからのメール2 件と娘さんからのメールをご紹介します。
「 ご無沙汰いたしております。娘が、無事に高校を卒業できました。なんとか大学にも進学することができました。高校の卒業式の日に『井手先生にご報告しなさい』と娘に言ったところ、すでに報告して、その上で先生からお返事までいただいているとのことで、大変驚いた次第でございます。ありがとうございました。井手先生には自分が大学に合格した時点で一刻も早くご報告したかったのだと思います。娘は先生のお言葉を有難く頂戴したことと思います」
娘さんへ私から送った返信メールをお母さんが読まれた後に送られてきたメールです。
「娘にメールをご送信いただき、本当にありがとうございます。井手先生が娘にしっかりと寄り添ってくださったがゆえのお言葉で、感謝の念に堪えません。
井手先生のお言葉は冷静で分かりやすく、かつ慈愛に満ち、親の説教とは全く異なり、感動いたしました。(以下省略)」
娘さんが送ってくれたメールを書き加えておきます。
「先生お久しぶりです。大学受験に無事合格し、4 月から通うことになりました。先生の治療を受け、自分の性格の特性や傾向に目を向け、未来を変えていくきっかけを与えてくださったことに感謝しています。今は前を向けるようになり、毎日ポジティブに過ごせるようにうまくいったことを習慣化したり色々自分なりに試行錯誤して順調に回復しています。本当にありがとうございました。大学での生活が落ち着いたらまたいつかうかがいます。コロナが流行しているのでお体に気をつけてお過ごしください」
母親が“ 親の愛情の大切さ” を理解し、過去の対応を見直し、娘をより理解するように接するようになり、その愛情が伝わり、娘が反抗しても母親はずっと心に留め、愛情を注ぎ続け、安心感を与え続けた成果だといえます。
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第3章 醜形恐怖症