脳科学・遺伝学に基づく「催眠療法」に関連した補足解説

分離不安と心的未分化(P.126~131)

 
母子間の分離不安 (Separation Anxiety between Mother and Child)
 
これは、特に幼少期において、親(特に母)からの分離や離れることに対する不安や恐怖を指します。これは、幼児が主要なケアギバーである母親から離れることで生じる安全感の喪失に関連しています。
通常、子供は成長とともに分離不安を克服し、自己効力感や独立性を獲得していきますが、過度な分離不安が続く場合、それは精神的な問題の徴候となることがあります。
 
例えば、子供が親や養育者から離れるのが困難で、学校や友人の家に行くのが怖くていけないなど、通常の成長過程における一時的な分離の恐怖を超えて、その不安が持続する場合など、分離不安障害の診断が考えられます。
 
この不安は、生物学的には生存のための本能的なものと考えられています。ヒトの脳には「アタッチメント(愛着)システム」というものがあり、これは主に扁桃体、前頭前皮質、前帯状皮質(ACC)などに関連しているとされます。
 
愛着システムは、子供が生物学的に親や保護者に対して安全を求め、親や保護者が子供を守るという役割を果たすためのものなのです。このシステムは人間の基本的な生得的な行動システムとして位置づけられています。
 
分離不安が生じると、扁桃体(特に情動と関わる部分)が活動を高め、ストレスホルモンの放出を促します。これにより、子供は安全な基盤である親(特に母)の近くを求める行動を取るようになります。
また、健全なアタッチメントの形成は前頭前皮質の発達にも関与しており、安定した愛着関係がこの領域の成熟を助けるとも考えられています。
 
 
心的分化 (Psychic Differentiation)
 
心的分化は、他者の心の中で何が起こっているかを認識する「心の理論」(Theory of Mind)とも関連しています。脳科学的には、これを実現するための主な領域として前帯状皮質(ACC)や側頭葉上部結節(TPJ)などが関与していると考えられています。
成長とともに、これらの脳領域の成熟やネットワークの整備が進むことで、他者と自己を区別し、他者の感情や考えを理解する能力が発達します。
 
心的未分化 (Psychic Undifferentiation)
 
これは心的分化の逆の概念で、自己と他者、または自己の内的な世界と外的な世界との間の境界があいまいである状態を指します。これにより、自分の考えや感情が他者に影響を与えると誤って感じたり、他者の感情や意図を自分のものとして受け取ってしまうことがあります。
 
 
 
これらの関係性については、母子間の適切な愛着関係が形成されないと、心的未分化の状態が持続する可能性があるとされています。つまり、母子の間での適切な愛着関係が築かれることで、子供は自我の形成を進め、自分と他者との心的な境界をしっかりと持つことができるようになります。逆に、愛着が不安定または不適切な場合、心的未分化や自我の弱さを持続させるリスクが高まり、またTPJの発達にも影響を及ぼし、後の人間関係にも悪影響を及ぼす可能性が考えられます。
 
 
 

成人の分離不安は、短時間の別れや分離を経験するだけで過度な不安を感じることを特徴とする精神的な障害です。
症状としては、離れることへの過度な恐れ、一人でいることができない、慢性的な心配や恐怖、体調の変化(頭痛、胃痛、吐き気など)などが挙げられます。

 
 
 

 
脳科学・遺伝学に基づく「催眠療法」補足解説 マインド・サイエンス独自の催眠療法