脳科学・遺伝学に基づく「催眠療法」に関連した補足解説

愛着障害・心的未分化・自我の弱さ・TPJ(P.131)

 
母子間の適切な愛着関係が形成されないと、心的未分化の状態が持続する可能性があるとされています。
 
心的未分化とは、
個人の自我や他者の境界が曖昧で、自分の感情や思考が他者からのものと区別できない状態を指します。心的未分化の状態では、他者の感情や欲求を自分のものとして経験することがあり、自己と他者との境界が不明確なのです。
 

心的境界(自己と他者との境界)が不明確だと、
人の気分や感情に強く影響されやすいため、周りの人が不機嫌や落ち込んでいると、その感情が自分のものとして感じられ、自分も同じように感じる傾向があります(感情の感染)。
自分の意見や欲求をしっかりと持つことが難しく、他者の意向や感情に合わせることが多くなります。そのため、自己主張が困難となり、自分の本当の意見や感情を抑え、他者を優先してしまうことが増えます。
他者の意見や感情に過度に敏感となるため、人間関係でのコンフリクトが生じやすく、また他者との関係に依存しやすくなります。
自分の感情や思考を他者と明確に区別することが難しいため、自分が何を感じているのか、何を思っているのかを明確に理解するのが難しくなることがあります。
他者の欲求や期待に過度に適応することで、自分を犠牲にしてしまい、過度なストレスや疲れを感じることがあります。
自分の感情や思考を他者のものとして感じるため、自己価値を低く見る傾向があります。

 
自我とは、
自己のアイデンティティや意識、他者との関係性を認識・調整する心の働きや機能を指すもので、個人が自分自身と外界を区別し、自分の欲求や感情を認識・制御する中心的な役割を果たしています。簡潔に言えば、「自分とは何か」という認識や、その認識に基づく判断・行動の核心を形成する部分です。
 
愛着対象者(特に乳幼児期の母親など)からの身体的・心理的な距離が生じることに対する不安や恐れ(母子間分離不安)によって、こうした自我の形成に問題を残すことになります。
 
つまり、母子の間での適切な愛着関係が築かれることで、子供は自我の形成を進め、自分と他者との心的な境界をしっかりと持つことができるようになります。逆に、愛着が不安定または不適切な場合、心的未分化の状態が持続し、後の人間関係にも影響を及ぼす可能性が考えられます。
 

心的未分化の状態では、自己と他者との間の心的境界が不明確です。したがって、子供は親からの価値観や要求を、自分自身の内面の声として感じ取ってしまいやすいのです。この結果、子供は自分の本当の感情やニーズを認識するのが難しくなり、親や周囲の期待に過度に適応しようとする傾向が強まります。
特に、親が強い価値観や要求を持ち、それを子供に強く押し付ける場合、子供はそれを受け入れざるを得ない状況になり、その結果、心の中で親の価値観や要求が自分のものとして定着してしまうことがあります。
このような状態が長く続くと、子供は自分の感情やニーズを認識することが難しくなり、親や周囲との関係において、自分を犠牲にして過度に適応する行動をとることが増えると考えられます。

 
心的未分化と自我の弱さ

自我の弱さは、個人が自己と外界との境界を正確に認識し、自分の感情や欲求を適切に理解・管理する能力が低下している状態を指します。
心的未分化は、自己と他者との心的境界が不明確である状態を示し、この状態の人は他者の感情や思考を自分のものとして感じ取る傾向があります。
これらの状態は相互に関連しており、心的未分化が持続することで、自我の弱さが生じる可能性が考えられます。
 
愛着障害とTPJの発達
愛着障害は、初期の養育者との関係が不安定または予測不能であったために、安全な愛着関係が形成されなかった状態を指します。
TPJは他者の視点を取り入れる能力(共感や心の理論)に関連する部位であり、適切な愛着関係の中で発達すると考えられています。
早期の愛着体験が不適切であると、TPJの発達や機能が適切に行われない可能性があり、その結果、他者の視点を理解する能力に障害が生じることが考えられます。
総じて、適切な愛着関係が形成されないと、心的未分化や自我の弱さを持続させるリスクが高まり、またTPJの発達にも影響を及ぼす可能性が考えられます。
 

TPJ(temporoparietal junction)とは、側頭頭頂接合部、側頭葉上部結節と呼ばれる脳領域のことを指します。TPJは側頭葉と頭頂葉の境界部に位置する領域で、他者の視点を理解する能力や道徳的判断、注意の方向性など、多岐にわたる認知機能と関連しています。

 
 
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