第4章 ある母と息子の物語
「お前が悪い! 生まれたくもない、こんなおもしろくない世の中に生んだお前が全て悪い! お前が一生償え。倒れるまで養え。俺はそれまでひきこもる。もうこれからは楽しいことだけして生きていく」
「そしてお前が役たたずになって死んだら、俺は適当に楽な方法で自殺する」
「お前が塾に行かせて大学に進学させようとするのも、どうせ俺に金がかからなくなるための保険みたいなもんだろうが。こんな世の中で、ろくに休みもなく働く社畜みたいな生き方はしたくないわ。働きたい奴らだけが働けばいい」
これは、高校2年の時に中退するというのを母親がなんとかなだめて卒業までにいたったものの、その後ひきこもっている息子が、母親に発した言葉です。
母親がどんなになだめようと努力しても、息子はこのような発言をして自分の考え方は絶対に正しいと言い張っていたようです。
母親が息子に「このままだと生活保護でも受けてもらわないとやっていけない」と言うと、息子は逆上して、「お前は無責任に産んで都合が悪くなったら放り出してそのまま死ねというのか。どこまで無責任なんだ!」と悪態をついて話にならなかったようです。
夫とは、息子が小学校に入学してから間もなく離婚調停を経て、やっと離婚が成立し、母親が息子を引きとり育ててきました。
子供の成長を楽しみ仕事に励まれていた母親は、高校に進学してから不登校になりかけている息子を支えながらも、将来の大学進学を楽しみにしていたようです。
息子が高校2年に進級して間もなく「こんな自分を産んだお前が悪い」と言い出し、「生きている価値がない、受験もしない」と母親に断言しました。
高校を卒業後は、母親の再三の説得にも頑なに応じず、ゲーム三昧のひきこもり生活を1年ほど続けました。将来のことを話題にだすと、「お前が今まで何年も俺に押しつけてきた苦しみからやっと抜け出したんや。やっとほっとする楽しい生活になれたのに、それの邪魔をしようとするのか。自分の都合のいいようにしたいだけじゃないか。それを俺のためとか言うな。腹がたつ!」と、進学の勧めを拒絶し、執拗に言うと怒って暴力を振るってくるので、何度も怪我をしていたようです。
それでも「諦めきれずに進学を勧めると『この状態はお前のせいや。お前が無責任に俺を産んだことが全ての発端なんや』と、いきなり部屋の隅に私を追い詰めて殴りかかってきました。頭にこぶができ体にも数ヶ所あざができてしまいました」と語っています。
そんな暴力が時々ありましたが、ある日、母親を叩きながら「俺はお前に殺されたんや!」と2回ほど口走りました。
「その言葉の意味を考えながら頭は真っ白でした。あまりのことに呆然としました。夫の昔を見ているようで、ぞっとしました」と母親はその当時を回想していました。
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