第6章 催眠の世界

 
 催眠現象を見たことがあるほとんどの人が、自分も催眠にかかるのだろうかと興味を抱く一方で、催眠術なんてあり得ないだろうという猜疑心を持つなど、催眠に対して様々な意見があると思います。

 しかし多くの人が、かかるものならどんな感覚になるのか一度体験してみたいと好奇心を持たれるのではないでしょうか。

 催眠術にかかっている人を見ると、術師に操られている印象を受けられるかもしれません。実際に体験した人は、自分の意思ではなく、やらされていたと感じる人もいます。

 そうした非日常を体験してみたいと思ったり、奇異な感覚に恐怖を覚えたり、催眠の世界は、実に人の感覚の不思議を表しているのです。

 私自身、脳の催眠状態を活用した心理療法(催眠療法)の専門家として相談を受けながら、テレビの出演依頼や講演などで、いわゆる遊びのショー催眠術を披露してきました。それは、催眠術がまやかしではなく、しかもいかがわしいものではないということを実証するためにショー的な催眠術をやむなく実演してきたのです。

 また、実際に私が、催眠術の実演ができるという事実を証明しておかなければ、催眠術に関して真実を述べたとしても、催眠術を使えない人間の戯言のように見はなされてしまいかねないからです。

 現実に、バラエティーのテレビ番組で行われている催眠術のショーは、やらせが横行していることがよくあります。それは、撮影時間に制約があり、お笑いタレントなどの出演者が番組制作の意図に協力してしまうがゆえに、不自然な催眠状態が展開することになり、見る人を驚かせるか、もしくは不審がらせてしまいます。

 念のために断言しておきますが、これまで何十回となく催眠術をテレビなどで披露してきましたが、私は一度も“ 保険” を使ったことはありません。

“ 保険” とは、テレビ制作者側で用意される、かかったフリをしてくれる出演者のことです。打ち合わせの段階で事前に知らされます。こうした出演者がいなければ、日程が組まれた出演者の限られた契約時間内で面白い番組が制作できないからです。

 それゆえに、バラエティーの催眠番組や舞台などで実演するショーの催眠現象を単純に真実と見なさずにいてほしいのです。私のライフワークである催眠療法における催眠現象とは、活用の目的が違うゆえに、全く違う脳内現象だと理解してほしいと思います。

 ここでは、真面目に「催眠」という脳内の現象を理解していただくために話を進めていきます。


 
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