第2章 愛着障害
 
 最近「愛着障害」という言葉は、専門書ならずともよく目にするようになってきており、積み重ねられてきた「愛着」の研究は、当初は戦争孤児などの幼くして親と切り離された特殊で悲惨な子供たちの問題を対象として研究されていましたが、そうしたケースにとどまらず、一般の家庭に育った普通の子供たちにも広がり、「愛着障害」が認められるようになりました。

 また「愛着の問題」を抱えた成人たちの愛着理論に基づく心理療法の展開は、この10 年でかなり導入され、身近な問題となりつつあります。

 愛着の問題のない子供を育てるためには、生育環境において、親が子供の要求を感じとる感受性を持ち、それに速やかに応じる応答性を持つことが重要です。
 すると子供は、いつもそばで見守ってくれ、必要な助けを与えてくれる存在に対して、特別な心理的結びつきを持つようになります。安定した親子間の愛着によって、自分は愛されているという実感とともに、安心感、安全感を持って育った子供は、将来、仕事でも対人関係でも積極的に取り組むことができるようになります。しっかりとした「安全基地」を確保して成長できた人は、外界のストレス
にも強く成長できるのです。
 さらにいうと、幼いころにしっかり両親から守られて育った子供は、大人になってからも自分をうまく守れるのです。

 愛着の問題が生じるのは、子供時代に親(養育者)から愛されるといった安心感を得られず、安全基地も見出せずに育った結果なのです。それにより、自己肯定感が育たずに、不安がつねにつきまとい、自信を持てず、対人関係において自己主張ができずに萎縮した自己表現しかできなくなります。また、反抗的・攻撃的な行動をとるもの、過剰に依存的な行動をとるもの、愛着を形成できないまま
閉じこもってしまうものなど、様々なタイプの精神的な問題を残してしまうのです。

大人の愛着障害

「愛着障害」による具体的傾向は、対人関係において心の絆が築けない、愛する感情が分からない、なぜか人を避けてしまう、または異常に人に接近して関係を築こうとする、自分に自信が持てずに自己主張ができない、周囲に気を遣い人の輪に入っていけない、自分を曝さらけ出せない、いつも冷めている、なぜか意地を張る、他人に関心を抱けない、自己否定的な感情に陥り抑うつ気分になる、人に必要とされたい、つねに不安感がある、つねに寂しさもある、何らかの依存に陥る、境界性パーソナリティ障害や、拒食・過食症、身体醜形障害や自傷行為などのような精神的傾向や疾患に悩まされてしまうことになる可能性が高いのです。

 また、家庭を築き子供を持つことを回避する傾向もあり、結婚しても離婚率が高くなる傾向もあり、家庭の崩壊、虐待やネグレクトの問題も発生します。社会に出ることにも拒絶感を抱くこともあり、刹那的な生き方に走る傾向も出ます。世間に背を向けた生き方に陥りやすい、さらには不良化して人生を投げやりな気持ちで過ごしたり、反社会的な行動を起こしたりなどの非行や犯罪の背景の重要なファクターになっています。

 それでは、安定した愛着の絆が築けないような育て方をする親とは、具体的にはいったいどのような親たちでしょうか。
 これから実例を挙げながら、説明していきたいと思います。

 
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