第2章 どのような親に育てられるか
子育てにおいて、愛着障害を引き起こす親は、自身が育った環境の中で同様の愛着の問題を経験している場合が多く、このような世代間連鎖は、親から子供、そして孫の世代へと同様の問題が繰り返されることがあります。
つまり、親が子供時代に十分な愛情を受けとれず育った場合、その影響が子育てにも及ぶ傾向があるということです。「エピジェネティクス」と呼ばれる21 世紀の遺伝学が新たな革命をもたらしています。
この学問は、人の遺伝形質がどのように変化するかを研究するとともに、その変化が次世代にどのように引き継がれるかを探究するものです。
生育環境によって、DNA(遺伝子)の配列そのものは変化しませんが、DNA に修飾(化学的変化)が起こり、遺伝子の発現に影響を与えるのです。これを「エピジェネティックな変化」と呼びます。
これは、一代限りのものではなく、次の世代に受け継がれていくことが分かっています。(第4章P.241 ~)
例えば、子供時代に虐待を受けた人が親になった時、共感や絆に関わる遺伝子が正常に働かずに、自分の子供と絆を結べなくなる可能性があります。そして、そうした劣悪な育児や虐待は、親から子へ、子から孫へと繰り返されていくのです。このような場合、反面教師となることはありません。
虐待に限らず、親が忙しくて子供と向き合う時間がなく、子供の気持ちに寄り添うような関わりができなかった場合、子供はそうした辛い感情に耐えて、愛されることを諦めて育つことがあります。こうした場合も、「愛着障害」による諸症状が生じ、次の世代へとバトンしていく可能性が高いのです。
生育環境による遺伝子のエピジェネティックな変化(化学修飾)は受け継がれていくため、親が愛着の問題を抱えているままだと、それが遺伝として次の世代にも伝達されてしまいます。
親自身が幼少期に虐待やネグレクトを受けて育っていたり、寂しい思いを我慢して過ごしていたり、親や周囲の無神経な評価にさらされて、人の目を気にするようになっていったり、親がすぐに感情的になって手を出していたなどの経験によって、自分が子育てをする立場になった時、無意識に自分の子育ての中に織り込まれていきます。
また、親は自分の子供に対して、将来に期待を抱くがゆえに注意を促すことが多いかもしれません。また、誉めることよりも厳しく接することや、他の子供と比較してハッパをかけたり、怒ったり、嘆いたりするような行為をとる場合もあるでしょう。
このような親の対応を受けて、子供は自分が親から認められていない、愛されていないと感じて、自信が持てずに育っていくことが多く、これらも、愛着に傷を残したことになります。
時には、親が子供の能力に期待し、子供もその能力を伸ばして親の期待に応えようとするので、子供自身が望んでいると思い込み、親というより厳しい指導者となってしまい、子供の精神面で多大な負担を与えてしまうことがあります。さらに、親の期待に応えられなかった場合、子供には挫折感が強く残り、敗北者として自己評価を下げてしまうことがあります。
子育てにおいて、子供の将来を考えることも大切ですが、愛情を忘れてはいけません。親がつねに指導者として接することで、子供は自分を受け入れてくれる人がいないと感じて育ち、自己評価が低くなってしまうことがあります。
勉強や、スポーツ、音楽など様々な分野において、子供に対する親の期待感と優越感による暴走が、子供にとっては不幸な結果となることがあるため、注意が必要です。
脳科学・遺伝学に基づく「催眠療法」の一部を読むサイトマップへ戻る
