息子は訴えます。「生きていくのがしんどい。生きている意味が分からない。自殺したいが、痛そうだし、苦しそうだし、怖いから死にたくても死ぬこともできない。生き地獄だ。こんな世の中に生まれてきたくなかった。お前は、こんな世の中に俺を産んで、もしかしたら自分の子供がそういう考えを持つ可能性も、何も考えていなかったのか。お前のせいで、こんなに辛いのに!」
訴えられる母親は、「何度この言葉を聞いたことでしょう。そして、何を言ってもうるさい! と罵られます。お前の言うことをしていたらいいことあるかと思ってきたけど、何もなかった。中学で部活を頑張っても、勉強を頑張っても、いい高校に入っても、高校で部活に入っても、しんどかったのを無理して卒業しても、残ったのは徒労感だけだと言われます」と話しました。
息子が「学校へ行こうとして電車に乗ると必ず下痢になり、身体に変調をきたし、人が怖い、と苦しんでいた姿。学校行事が大嫌いで、体育祭や、学園祭、修学旅行も欠席し、楽しい思い出が作れず、家に寂しくじっとしていた姿、無理して参加しても、義務から苦しい気持ちを持ってでしか臨めず、そんな態度で臨むから、周りもだんだん離れていったのでしょう。思い出しただけで私も胸が苦しくなります」と母親は語っています。
「俺はもう、分かったんや。世の中、頑張ってみたって今まで何もいいことなかった。学校だって、面倒くさい人間関係とか決まりばかり。単位がどう、行事がどうと決まりばかりで、習っている内容も、本当に大学で必要なんか分からんようなもんばかり」
多くの精神的苦しみを背負い育ってきた彼(息子)の、被害者としてのトラウマは生育過程に深刻な影響を与えていたことでしょう。しかし、そうしたトラウマからの癒しの過程において、まず行わなければならない重要なことは、彼自身の中から生じている遺伝的傾向を理解させることです。
なぜなら、彼は混乱して生きてきたからです。
例えば、なぜ自分が学校で友達とうまくやっていけないのか。そうした答えを示してくれる人がいなかったので孤立感の中で苦しんでいったのです。
受け入れ難いものだったとしても、自分の遺伝傾向を客観的に見つめ、それによって自分自身を知り、苦しさの原因を理解することで、これまでの生きづらさは乗り越えていけるという現実に希望を持つことから始めなければなりません。
遺伝傾向による生まれ持った性格が社会生活において生きづらかったとはいえ、人は適切なことを学習して身につけることで環境に適応していく能力があります。認知や思考の修正を経て人は変わっていけるのです。
彼は、小学校高学年ころから同級生との関わりにおいて悩むようになり、学校や部活でも孤立していきました。クラスメートとの関係がなぜかうまくいかずに、周囲を恨みながら我慢して学校生活に関わる日々が続いたのです。
しかし、催眠療法を進めていく中で、この彼自身にも多くの問題があったことに自ら気づいていきました。
幼少期の様々な状況の中で形成された病理的な幻想(認知の歪みや思考の癖)を修正して、相手の立場に立ち感情思考や衝動の抑制などをコントロールできるようにしていく治療や指導が必要といえるのです。
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第4章 心の叫び