第5章 眠りの中の脳

 睡眠中に脳内では多くの有益な活動が行わていることを知れば、あなたは、きっと眠りの価値に魅了されることでしょう。睡眠中、意識はなくなっていても、脳は多くの作業を続けているのです。

 まず、身体面での働きは、自律神経を整え、ホルモンを全身にいきわたらせ身体全ての臓器の維持・修復などの代謝活動や成長、回復を行っています。

 脳内においては、脳の健康状態を整えるために、脳の細胞に栄養を補給し、代謝を行い、神経繊維の障害を修復し、シナプス接合の削除や新生などの作業をしています。

 さらには、睡眠の段階に応じて脳内で産生される化学物質の分泌量に変化を与えて、トラウマや怒り、嘆きの感情の記憶を軽減して心を解放し、人生に必要な記憶の定着や削除を行い、思考などを統合し、学びや経験から必要なアイデアや発想を生み出し、人生の気づきや悟りを得るなど……睡眠とは、私たちがこれから生きていく未来に備えるための時間なのです。

 私たちが生きる上において、睡眠がいかに欠かせない時間であり、十分な質と量の確保が必要なことを深く理解して、真剣に考えて、実践してほしいのです。

睡眠と摂食による脳への理想的な栄養補給が確保されてさえいれば、相当なストレスにさらされていても、「心の病」などの精神疾患に陥ることもなく、発症したとしても早く回復するのです。しかし、脳機能が乱れてしまうと、睡眠や摂食を妨げる様々な要因によって脳の正常な機能と維持ができなくなるです。

 眠りの中の世界と時間は、とても神秘的です。
 次に、さらに詳しく睡眠時の脳内の活動を見ていきます。それは「心の病」とも深く絡むことだからです。
 
脳内のゴミ

 脳内にもゴミが出ます。このゴミを睡眠中にちゃんと除去しなければ、脳にとっては有害物質となります。

 脳の活動は“ 心” を生み出しています。脳内での電気信号や化学信号の伝達によって私たちの認知や思考は作り出され、そうした脳内活動は、体全体で消費するエネルギーの約20 ~ 25 パーセントを消費し、新陳代謝も含めて生じたタンパク質のゴミが脳細胞間に大量に発生します。

 身体の細胞と違い脳細胞は細胞分裂による再生をしません。しかし、脳細胞を構成する分子レベルでの新陳代謝(物質交代)はつねに行われています。
 成人の脳は毎日約7グラムのタンパク質の代謝が行われ、新旧入れ替わっているといわれています。それによって1年間で約2.5 キログラムの脳の老廃物が生じ、その除去がスムーズに進行しなければ、脳内で形成されるタンパク質凝集体と呼ばれるタンパク質の塊(ゴミ)として残ることになります。その結果、タンパク質凝集体が脳内の電気信号や化学信号の伝達を妨げ、脳機能に回復不能なダメージをもたらしていることが分かってきました。

 老廃物質を脳内から排除するシステムに、睡眠が深く関わっているのです。

 
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