第1章 催眠療法
 
 心の病や精神的苦痛などの薬物を使わない治療や改善に“ 催眠療法” がこれからの時代に必要となってきます。

 しかし、私たちが必要としているのは、単なる伝統的な催眠療法ではなく、最新の脳科学や遺伝学に基づく実証された効果を発揮する“ 催眠療法” でなければならないと思っています。

 これまでの催眠療法のイメージは、催眠状態に導き、暗示誘導によって心の状態を変えたり、性格などの傾向を改善したりするというようなものでした。したがって催眠をかければ、いとも簡単に人の心が変わるものと誤解を生んでいました。それゆえに、「催眠術でどうにかいまの心の苦痛を消し去ってもらいたい、変えてもらいたい」と訴えられる人が多かったのです。

 しかしながら、時をかけて発症した心の病は複雑な原因が絡んでいるものです。したがって、治すためにはこれまでの人生を分析する時間が前もって必要となります。

「1回で対人恐怖やパニック障害を治す催眠療法」などという広告にすがり期待しても、結果的に騙されて落胆するということがこれまでの現実でした。実態はそううまくはいかないのです。

 なぜそのように騙されてしまうのかというと、催眠に関する誤解が根強く、また人の脳機能に関する知識が乏しかったからです。

 テレビや舞台などで演じられる催眠ショーにもそうした誤解を生む要因があります。ショーとしての催眠術は、第6章で詳しくお話ししますが、一時的な効果を生み出してみんなを驚かせているだけなのです。

 心の病を改善する場合は、原因を明確にして、治った後に再発しないためにも時間をかけて適切に実施する必要と理由があります。

 人の心と向き合う時、今発症している症状や、精神的苦痛がどうして起こっているのかという原因を理解することから始めます。

 そして、どのような対処が必要なのかという分析から治療のための的確な過程を組み立てていきます。

“ なぜ心を病むのか” といった原理やメカニズムが無視されていては治せるものも治せないのは当然ではないでしょうか。

 病んだ心の諸状態を創り出しているのは“ 脳” なのです。脳機能は脳の部位によって違った役割を担っています。また、治るということは脳が正常な状態へと変化することを意味しますので、完治までには脳細胞が新陳代謝によって修復される時間も必要です。

 催眠による暗示だけでは、症状を一時的に消すことができたとしても、単なる一時しのぎで、心の諸々の病気や苦痛を生み出した原因を根本から改善し治すには短時間では無理があるのです。しかしながら、必要な段階を踏んで対処すれば根本から治せます。そうした治すために必要な原理を詳しく理解してもらえるようにお話ししていきます。

 心の病や苦痛を感じる諸問題は、余程こじらせて手遅れになっていない限り治せるという現実をわかっていただけるものと期待しています。

 
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