脳科学・遺伝学に基づく「催眠療法」に関連した補足解説
「理性の理解、感情の納得」の解説(P.40~43)
「理性の理解、感情の納得」は「Understanding of reason, Acceptance of emotions」と訳される、または
「Cognitive understanding, Emotional acceptance(認知的理解、感情的受容)と訳されます。
催眠療法や心理療法は、このプロセスを効果的にサポートする必要があります。
心の病や精神的苦痛を治す為に、催眠状態を深めて、一方的に催眠暗示を繰り返しても効果は期待できません。
なぜなら症状を作り出している脳部位がその暗示をしっかりと受け入れて永続的に変化することがないからです。効果を出す為にはその前にやるべきことがあります。
心は脳の活動によって生じます。
また、結果は原因から生まれるので、結果である症状を治す為にはその原因を明確にして、それを解消する必要があります。
相談者が自己の感情と向き合い、理解し、納得することで、症状から解放された健康的な心の状態へと向かっていくのです。
重要な意味を持つこのプロセスを脳科学の知見も交えて詳しく説明したいと思います。
心の病や精神的苦痛の原因が情動(感情)系にある場合、その働きに介入するには前頭前野による理性的な理解が必要となります。この理解があることによって、前頭前野は情動系の活動を抑制し、症状を鎮静化することができます。
これを「理性の理解、感情の納得」と表現します。
症状を生み出している原因を明確に理解することで、自身の感情を客観的に把握し、納得することが可能となります。この過程を経ることで、過剰な反応や感情の制御が改善され、心の病や精神的苦痛の治癒が進むのです。
過去のトラウマや困難な経験に対して向き合い、理解し、納得することで、相談者は感情に対する新たな視点や受容の姿勢を身につけることができます。これによって、心の病や精神的苦痛が改善していく過程が進んでいきます。
相談者が自分の感情が起こる理由やトラウマとの因果関係を知り、理解し、納得することは、心の病や精神的苦痛の改善に重要な要素です。
感情の起因やトラウマに対して理解を深めることで、相談者がそのトラウマを認識し、それに関連する感情を理解することで、過去の出来事と現在の感情との関連性を把握できます。この認識と理解は、感情の納得感や理性的な処理を促し、前頭前野が過剰な情動の反応を抑えるのに役立ちます。
理性の理解に基づいて感情をより適切に処理し、感情の理解と納得によって、過剰な情動反応を抑えることができるようになるのです。
このような脳機能をもう少し詳しく説明します。
前頭前野は、脳の前方に位置する部位であり、複雑な思考や意思決定、制御機能を担当しています。情動や衝動的な反応を抑制し、理性的な思考や行動を促す役割を果たします。前頭前野は情動系との相互作用によって、感情を制御するためのフィードバック機構を提供します。
情動系は、脳の中でも特に扁桃体や海馬、視床などの部位が関与しています。情動系は感情の生成や処理を担当し、自律的に反応を引き起こすことがあります。そして、感情が過剰に反応し、心の病や精神的苦痛を引き起こすこともあります。
理性的な処理とは、前頭前野が情動系に対して行う制御や調整のことを指します。理性的な処理は、情動の抑制やバランスを促し、感情の過剰な反応や暴走を抑える役割を果たします。これによって、相談者はより冷静で客観的な状態になり、感情の納得と理解を促すことができます。
理性と感情は密接に関連しており、互いに影響を与え合います。理性的な処理によって感情の制御が行われる一方、感情の納得や理解も理性的な処理を通じて促されます。相談者が自分の感情を客観的に理解し、納得することで、過剰な反応や感情の制御が改善され、心の病や精神的苦痛が治っていく過程が進んでいきます。